会場整理と危機管理


まず会場整理とは何か、それはイベントを円滑に進める為の状況を作り出す作業の事である。
会場整理と一言で括ってしまっているが、その仕事は最終的に裏方全般に及ぶといっても過言ではない。
来場した客の誘導や案内、劇やラジオなどであれば客席の指定も必要となる。
客からの質問や要望に対して直接受け答えするのも、その仕事の内である。
また不測の事態、つまりはモンスターの乱入や荒し行為の発生に対しても、会場整理に当たる者は真っ先に対処しなければならない。
モンスターを排除し、荒しへの必要な処置をとり、客に対して然るべき指示を出すのだ。
会場整理とは極論すれば、イベント会場を支配しコントロールする為に采配を振るう役目なのである。


だが現実には、会場整理となった者は接客業も真っ青の土下座外交をすることとなる。
何故か。
それは前回のコラムでも書いたように、ユーザーイベントにはその存在を保障するものが無いからである。
イベント側に強制権は無い、会場整理を実際に行うに当たってはこのことを念頭に置かなければならない。
まず基本となるのは、客の協力を求めるということである。
その為には当然、客が協力したいと思わせるような数々の努力と注意を払わねばならない。
例えば会場までの案内は、一目で目的地が判るよう地図を配したり単純明快な言葉を選ぶのが望ましい。
誘導や客席の指定は、当然ながら平身低頭な言葉遣いでなければならない。
またチャット窓を使う場合は、カーソルを合わせずとも読み取れるように文を考える必要がある。
そして、こういった事は予め宣伝サイトなどで事前に判り易く説明しておくのが良い。
会場整理とは結局のところ、接客業なのである。
客がイベントにストレスを感じる事無く参加出来る環境を整える、それこそが会場整理なのだ。


さて、ここまでで取り上げた会場整理の役割は、イベントの環境を整える裏方作業の一部に過ぎない。
予想されうる問題の幾つかは、対処療法だけでは解決出来ないからだ。
その中でも最も対処が困難なのが、荒し行為に対する処置や対策である。
結論から言ってしまえば、荒し行為が発生してしまった後に可能な処置は殆ど無い。
精々客に対して該当人物への耳打ち拒否設定を促し、折られた枝を排除しつつ無視を決め込むしか無いのである。
荒し行為への対策はその殆どを予防措置に頼るしかないのだ。
取り得る予防措置は、対象の違いで大きく二種類に分別される。
一つは荒し行為を行うと予見される人物や団体が特定されている場合である。
これへの対処はケースバイケースとなるが、基本的には対象に対してイベント開催情報を流さないようにする。
また同一サーバー内の他のイベント団体に協力が得られるのであれば、示し合わせて別会場で同一日程の開催スケジュールを組むのも良いだろう。
問題はもう一つの場合、即ち荒し行為を行う人物が一般の客から出てくる状況である。
これはそもそも予見が難しいばかりか、如何なる状況であっても発生する可能性をゼロにする事が出来ない。
何故なら、そのような荒し行為が行われる原因は、その客にとってイベントが好みに合わないか詰らない、あるいは不快と感るものだからである。


如何なる娯楽であれ、全ての人間の好みに合うなどと言うことは無い、それはユーザーイベントであっても同じである。
内容をどれだけ万人向けに努力したところで、それを好まぬ人間が居ない保障など無いのである。
だがこの可能性をゼロに近付ける方法は無い訳でもない。
内容を選ぶ人間が居るのであれば、それを予め告知しておけば良い。
それでも自分の好みと合わないものを観に来る者は居るだろうが、そういう者は判った上で覚悟して観に来ていると考えて良い。
あとは期待したものが観れなかったと失望される事が無いよう、内容を吟味し質を極限まで高める努力をすることである。
そして客を不快にさせるものの排除、これが荒し行為予防の最大の要となる。
会場整理担当者の対応の未熟さ、イベント内容の稚拙さ、客を不快にさせるものはそれだけだろうか?
ここで思い出して欲しいのは、会場整理とはイベントにストレス無く参加出来る環境を整えるということである。
全ての客にほぼ確実にストレスを与える状況、それは人数過多である。
この状態に陥ったイベント会場は、高い確率で荒し行為が発生している。
過去の実例として、以下のものを例示する。
02年開催「ひゃっくったん誕生日イベント」「劇団ものかげ第一回公演」
03年開催「SummerFestival」
04年開催「WhiteFestival」「フレイア夏祭り」「SummerNightDream」
05年開催「AllStarDustFestival」
良く読み解いてていけば判るが、03年以降は何れも街一つを会場として占有するタイプの複合イベントが例に挙げられている。
そして上記全てのイベントに共通するのは、過剰なまでの宣伝告知をしたということである。
02年の二例は最終的に鯖落ちするほどの客が集まり、結果荒し行為を行う者が現れる事となった。
これは当時のサーバーが貧弱であっただけでなく、当時最大手であった情報サイトの掲示板で宣伝をしたことも原因となっている。
複合イベントはその規模から必然的に大規模な宣伝告知をしていたが、結果としてそれが仇となった形である。
この事例では単純に人数過多に陥っただけでなく、会場全体のコントロールに失敗したことも事態の悪化に拍車を掛けている。
これらの事例から導き出される結論は、一つはイベントの規模に見合わない宣伝をすべきではないということである。
もう一つは、自分達の能力に見合わない規模のイベントを企画すべきではないということだ。
RED EventDatabaseの複合イベントの項を読めば判るが、大規模なイベントほど膨大なリソースが必要となる。
それは小中規模のイベントに費やされるリソースを単純に倍加しただけでは決して満ち足りることはない。
敵を知り己を知るのは兵法の基本である。
己の力量すら知らずに対策だの対処だのと考えたところで、それは卓上の空論に終わるだけである。
過去への知見と研究、自己の技量鍛錬、高みを目指す為の不断の努力、目的を達成する不屈の精神、人を動かす奢りなき精神、その何れが欠けても危機管理は成り立たない。