積めない品物の話

C-2の貨物積載能力が優れているとは折に触れて何度も言ってるような気がするが、では何でも積めるかといえばさに非ず。
幾ら大型化したからといって所詮は戦術輸送機、自衛隊装備に限定しても積めないものは幾つかある。
ただC-130より大型化したお陰で従来より積載不能な装備品は大分減っており、積める物より積めない物の方が少なくなっている。
以下は自衛隊の車両装備及び回転翼機でC-2に積載不能と推定される装備品目である。

名称 高さ 長さ 重量
TKX 3.24 N/A 9.42 44(40)
90TK 3.4 2.3 9.8 50
74TK 3.18 2.25 9.41 38
87AW 3.18 4.4 7.99 38
99HSP 3.2 4.3 11.3 40
90TKR 3.4 2.7 9.2 50
78TKR 3.18 2.4 7.95 38.9
大ドーザ(?) 4.365 3.485 6.83 22.1
91TKB 3.2 4 10.9 41.8
CH47JA 4.8 5.96 15.88 22.68
MH53E 4.8 8.65 22.35 31.6
MCH101 4.61 4.11 19.3 14.6
CH47JLR 4.8 5.96 15.88 22.68
各坐収容機 5 5.15 22.9 111.8
トートラ 3 1.575 8 47.9


MH-53はどうせC-2配備前に退役するからどうでもいい気もするが一応列記。
CH-47JAとCH-47JLRは胴体幅を増大した航続距離延伸型で、元のCH-47Jは搭載可能である。
胴体スポンソンの拡大でなくドロップタンクで燃料増やせば、C-2に積んで尚且つ航続距離も長く取れそうなのだが言っても仕方ない。
車両装備の大半は寸法ではなく重量が原因で積載不能となっている。
加えて言えばどれも機甲科の装備ばっかり、戦力の空輸がもっとも非現実的なところだから仕方ない話ではある。
寸法が原因で積載不能となるのは、概ね回転翼機に集中している。
それでも積めないのは大型機に限られ、自衛隊保有する大半の回転翼機は積載可能である。
後継の決まっているMH-53Eを除けば、自衛隊回転翼機で積めないのはMCH-101とCH47JA(LR)だけと言って差し支えない。
ちなみに積載可能な回転翼機で最も大きいのはEC225LPになると思われるが、同機はA400Mでも積載可能と謳っている。
というよりA400MとC-2の貨物室寸法が殆ど変わらないという前提があって、その上でA400Mに積めるならC-2にも積めるという結論に達している。

貨物室容積の話

では次に貨物室の容積、Capacityの話である。
まずは以下の資料をご覧いただこう。

http://www.globalsecurity.org/military/library/report/gao/ns97050.pdf


旧ユーゴでのOperation Joint Endeavor にて実施された空輸実績に関するGAOの報告書である。
まだミスター不適切が現職だった頃の懐かしい話であるが、興味深いデータがここには示されている。
当時の米軍主力輸送機の何れもが、重量ペイロードより先に貨物室容積を使い切ってしまうということだ。
平均積載重量はどの機も25%以下で、C-17の24%という数字がもっとも高いことも注目すべき点である。
C-5は20%、C-130は14%、C-141は18%、KC-10は僅かに7%という有様で、少なくとも同作戦における貨物の大半は軽く嵩張るものだったのだ。
そもそも輸送機に搭載する貨物は大半が陸軍の装備だが、一般的に陸軍の装備品で多くを占めるのは非装甲のソフトスキン車両であったり牽引式の榴弾砲であったりと、重量の割りに多くのスペースを占有するものである。
例えばC-17の重量ペイロード77.519tは車重2.35tのM998HMMWVならば33両分にもなるが、貨物室幅は5.48mで貨物室長は20.78m、ランプ長は6.52mで、4.6m*2.1mのHMMWVは10両しか積載できない。
もっと面倒なのが回転翼機で、上で積載不可能にしたCH-47JAはC-17とて1機しか入らないし、C-5ですら2機が限界である。
そう都合良く貨物室にフィットするような規格外貨物なんてありゃしないし、無いから規格外貨物と呼ぶ訳で、無駄なスペースがあまるあまる。
何より最悪なのが、この手の輸送任務では都合よく目的地が一致して空きスペースに収まる他の貨物がそうそう無いことだ。
大型ヘリと野砲の届け先が一致する可能性が高いとは考え難いし、緊急性の高い貨物であればあるほど一緒に纏めて運ぶのは難しくなる。
と言うか軍用輸送機には緊急性も要求されるのだから、この辺の非効率性は少なからぬ場面で容認されてしまうこととなる。
さて軍用輸送機の貨物室容積とt当り容積とt当り断面積を表にして見てることにしよう。

貨物室寸法(m) ペイロード(t) 貨物室容積(m3) ランプ部容積(m3) 1t当り容積 1t当り断面積
C-2 16+5.5*4*4 37.6 256 70.4 8.68 0.425
C-1 10.6+2*2.6*2.5 8 68.9 10.4 9.912 0.812
C-5 36.91+7.16*5.79*4.11 120 878.343 136.308 8.455 0.198
C-17 20.78+6.52*5.48*3.76 77.519 428.167744 107.474 6.909 0.265
C-141B 28.4+3.4*3.1*2.78 40.439 244.751 23.44 6.632 0.213
C-130 12.31+3.12*3.12(3.02)*2.74 19.09 105.235 20.653 6.594 0.447
An-124 36.47+5.08*6.4*4.4 150 1026.995 114.442 7.609 0.187
An-70 19.1+3.3*4*4.1 47 313.24 43.296 7.585 0.348
An-22 26.4+6*4.4*4.4 80 511.104 92.928 7.55 0.242
Il-76MF 19.6+4*3.66*3.25 60 233.142 38.064 4.52 0.198
A400M 17.71+5.4*4*3.85 37 272.734 66.528 9.169 0.416


ランプ部容積はかなり適当、貨物室容積もあまり正確とは言えない、でも調べてたらキリが無い。
まず貨物室寸法が世代によって見事に様変わりしているのが見て取れよう。
C-1やC-141などは463L規格への対応を明確に指向したサイズであり、C-5やC-17の場合はこれを横に2枚並べられる幅が与えられている。
一方でA400MやC-2は463L規格による効率性を重視しておらず、従来よりも規格外貨物への対応を重視したサイズであると言えよう。
そんな463Lに対応する必要の無かったロシア勢は、一見するとアメリカ機の後追いに見えるが、Antonovの3機種は何れも貨物室高が4m超であるという特徴を有している。
特にAn-22はICBMの積載が要求として提示されており、西側よりも早くから規格外貨物への対応を重視していた背景が存在する。
登場時にはC-141のコピーと言われたIl-76も、やはり貨物室の高さと幅はC-141を上回っている。
次にトン当り容積、本当は貨物室の上1/4ぐらいは台形状に幅が減るのだが、ある程度の傾向は掴めると思われる。
8〜9台と7台と6台以下でバッサリ分かれてしまってるのが見て取れる、というかIl-76はストレッチもせずに重量ばかり増やしたから、こういう比較は不利になりがち。
Antonov勢が上も下も7台半ば、米軍勢はC-5以外6台、というのもまた面白い。
そしてA400MとC-2がC-5を抑えてトップクラス、C-1はクラスが違い過ぎて比較自体が不適切といったところである。
最後のトン当り断面積では全く様相が変わってしまっている。
容積では凡庸な数字だったC-130がA400MとC-2をぶち抜いてトップに付けてしまっており、C-5はAn-124と仲良く一気に最低クラスへ転落だ。
この比較は貨物室長が短いほど有利なので、同クラス機で比較しないと意味が無い。
てなわけで以上の右往左往しまくりな比較から無理に何かを読み取るとすれば、東西問わず同任務の機体でペイロード以上に貨物室容積の拡大を優先してきたというところか。
そこのところはC-2のみならずA400Mもしっかり拡大を図っていて一応は時流に乗れてる、と言いつつAn-70と比べると高さが微妙な気も。
よくよく考えてみればOJEでの積載量傾向も綺麗に開発順に並んでるので、そこから読み取ろうと思えば可能な気がするのは間違っていないな。