HPS-106のあれこれ

P-1が装備するレーダシステムことHPS-106について、今更ながらちょろちょろと纏め。
HPS-106の源流となるのが平成4年度〜13年度の日程で研究されていた、「対潜哨戒機用レーダシステム」である。
技本50年史によれば、空中線部は1モジュール2波同時送受信可能なX帯AESAで、冷却には溶媒冷却方式を採用している。
技術研究本部50年史航空機担当
信号処理部はアダプティブDPCAやスキャン間積分処理及びそれらの結果を統合する2種類の処理法が用意され、微速小目標検出、静止小目標検出及び目標相関検出を可能としている。
これらの試験結果を踏まえ、「次期固定翼哨戒機」用レーダシステムに対し以下の機能を付与する計画であることが延べられている。


・高高度からの小目標探知
・航法気象モード
・対水上モード
・対空モード
・ISAR
・SAR
・同時複数運用


同時複数運用とは空中線部を複数個設置し一元処理する運用法で、P-1には機首前面及び両側面に3枚と尾部に1枚の空中線が設置され4方向360度の視界を得ている。
航法気象モード/対水上モード/ISAR/SARについては説明省略、敢えて述べるとすればISAR及びSAR機能の付与はP-3CのAIP改修と同様に対水上/対地上哨戒能力を向上させる狙いがあると考えられる。
対空モードは自機に接近する敵性航空機を早期探知し適切な退避行動に移る為の機能、別に空中巡洋艦再びという訳ではない。
固定翼哨戒機は一般作戦機としては国境近辺で活動する頻度の高い機種であるため、各種の生存性向上策が図られているのだ。
HPS-106の機能と概要は以上の通りであるが、空中線部については最近になって防衛技術シンポジウムでその一端が明らかになっている。
2009年防衛技術シンポジウムポスターセッション先進装備-6
資料は東芝のポスターセッションのものだが、GaN適用例としてHPS-106の空中線部イメージ図及び構成ユニットの写真が示されている。
ユニットはX帯GaN素子を16モジュール組み込んでおり、これを長方形のフレームに100列収めた構成だ。
またこれとは別に第19回日米技術フォーラム参加報告に、HPS-106と「対潜哨戒機用レーダシステム」の空中線部がGaN素子適用前後例として示されている。
第19回日米技術フォーラム参加報告
このイメージからHPS-106の空中線部が大人二人分の重量と4インチの厚さであることや、素子を保護するカバーの様子が判る。
HPS-106は搭載機以上に注目を浴びない存在であるが、実用初のMPA用AESAであるのみならずGaN素子適用AESAでもあるのだ。

P-1の電源ちょろちょろ

音響処理システムに先進戦術指揮システム、4枚AESAのレーダシステムと電気を喰う要素に事欠かないP-1。
そのP-1に電気を供給する発電機には、KHI神鋼電気が開発したT-IDGが搭載されていることが判っている。
で発電能力については神鋼電気改めシンフォニアテクノロジーの製品カタログに記載あり。
シンフォニアテクノロジー航空宇宙機器カタログ
と言うわけでP-1の発電容量はエンジンに各90kVAの計360kVAにAPUの90kVAが加わることとなる。
ちなみにP-8Aの発電容量は両エンジンに各180kVAで計360kVA、APU分は不明。
737AEW&Cと同様の構成なのでAPUもそっちを参考にすれば多分判るだろうかと。

P-8Aのあれこれ

初飛行も済ませて色々と情報が出てきたP-8Aであるが、ここいらでさらりと資料纏め。
Program Overview P-8A
Farnborough International Airshow 2008 P-8A Poseidon
Australian International Airshow 2009 P-8A Poseidon
ちなみに資料は下に行くほど新しくなっている。
さて以前からいまいちはっきりしなかったTACO周りのシステムであるが、07年のものでmission management、09年のものでもmission computingぐらいしか書いてない。
これがP-1の戦術指揮システムHYQ-3と同様の働きを意味するのかどうかは微妙なところ、ACDS的なものとアピールするならautomated C&C systemとか書くだろうし。
あとTACOと言ったけどP-8Aのコンソールは完全互換タイプのtactiacl workstationが5個横に並んでおり、センサ席と指揮統制席の区別が無い。
実運用で区別しないのは有り得ないと思うが、区別しないとなるとACDSに該当するものが無いのは寧ろ当然ということになってしまう。
誰が船頭やるんだ?
次に機内配置であるが、一番気になるのがobserver stationと呼ばれている側方監視席とCrew rest席の位置。
P-3やP-1は側方監視席にソノブイ装填手を座らせ、TACO席にも監視用バブルウィンドを設けている。
ところがP-8Aはソノブイが機体後方に、側方監視席が機体前方にと離れてしまっている。
乗員9名とされていることから側方監視席にソノブイ装填手を座らせるのはP-8Aも同様の筈、これでは機内を長々と歩き回る羽目になる。
同様のことはギャレー・ラバトリと休息席、会議席などとの間でも言える事だ。
どうもソノブイランチャ〜ギャレーの間が短い為にこのような配置になってしまったように見えるが、どちらも他に動かすのは容易ではない。
床面積の広い737-800を使っていながら妙に狭苦しく見えるのは、これ等の設備配置の問題だろうか。
そういえば手動装填の与圧式ソノブイランチャが申し訳程度に設けられているが、バックアップ以上の役割は期待できなそうだ。
武装ステーションは翼下4箇所胴体下部2箇所爆弾倉5箇所の計911箇所、これはP-1はもとよりP-3よりも少ない。
特に爆弾倉の容量があまりにも少なく、P-3が8本積めた短魚雷も5本にまで減っている。
翼下ステーションもP-3と同等以下と言って差し支えないだろう。
最後にどうでも良い様なそうでない様なことだが、MADが08年の資料以降しっかり消滅している。

A400Mの秘密のごにょごにょ

せっかく初飛行したのにドイツメディアは御通夜モード、メーカーとユーザーは資金の問題で睨み合い、祝賀ムードも何処へやらなA400M。
重量問題がさっぱり解決する兆しを見せないことがメディアのネガティブな反応を招いてるようだが、さて具体的にA400Mの重量はどんな具合なのか。
AirbusMilitary公式サイトには最大離陸重量、最大着陸重量、最大燃料重量、最大積載重量の4つしか記載されていない。
ところが同サイトで公開されているゲームの中になんと運用自重が書かれているのだ。
運用自重は78.6t、これは06年に公開されたYCXパンフ記載値より18t近く重い。
もちろん運用自重だけ比較しても意味が無い、のだが最大離陸重量は141.5tと0.4tしか上回っていない。
つまり最大離陸重量に占める運用自重の割合がべらぼうに大きいのだ。
以前の駄文現実逃避する為の日記 - CHFの日記-と言う名の駄文倉庫と同様の計算式(MTOW/OEW)に当てはめると、A400Mの重量比率は1.8となる。
これはC-2/YCXはおろかC-1よりも悪く、表中ではC-160D以外全てに劣っている。
表中には無いがC-1と同世代のG.222にすら劣り、近代改修型のC-27Jよりわずかに(0.006程度)勝る程度。
当然だが以前のA400M自身の値よりも悪化しており、計画段階の数値と比較しても明確に悪化していることが判る。
Der künftige Transporter für die Europäischen Luftwaffen
ちなみにこの資料で興味深いのが22ページのエンジン形態と数を4通り変えて試算したスペック表。
現在のA400Mはターボプロップ4発のSOL22を具体化したものだが、右のターボファン双発プランSOL23はまさにC-2そのものと言えよう。
そしてこのSOL23、MTOW/OEWの数値が4プラン中もっとも良好なのだ。
最大無燃料重量が低くなることから選ばれなかった様だが、A400MとC-2の極端過ぎる重量比率の差の理由が垣間見える。

C-2のフラップちょろちょろ

そろそろ飛行試験に突入するであろうC-2だが、最近気付いたのが高揚力装置周り、特に前縁スラットとエンジンパイロンの形態の特異性。
パイロンが前縁スラットに干渉しないよう根元が抉れた形状をしているのだが、これは他にはAn-124ぐらいでしか見られない珍しい形態なのだ。
一般的なエンジンパイロンは前縁スラットを避けるどころか完全に分断しており、兄弟機のP-1でも前縁スラットはエンジンパイロンを避けるように分断されている。
前縁スラットを分断しないものの、エンジンパイロンと干渉する部分に切り込みを入れているのがC-5やIl-76など。