P-1はAEWの夢を見るか

新政権にちゃぶ台返しされる気配満々の今年の概算要求発表、とりあえず1個だけ「電波・光波複合センサシステムの研究」を見てみるとしやう。
かなり適当に纏めると次期AEWのセンサ部に関わる研究開発というもので、肝はそのセンサ部の構成。
事前評価本文に拠ればセンサ自体は、一般的なレーダに加えて赤外線波を感知するIRSTとパッシブレーダ方式を組み合わせたものとのこと。
IRSTはUP-3Cで試験をしていたAIRBOSSの、パッシブレーダは地上試験でC-1を探知対象として研究されていたものの成果をそれぞれ活用するとしている。
これらの各方式を組み合わせることにより、「ステルス機、巡航ミサイル及び弾道ミサイル等を早期に探知する」ことを目指している。
また各方式のセンサを統制する情報処理器についても研究対象となる。
纏めると、パッシブ方式対応電波センサ(AESA?)と弾道弾追尾まで可能な光波センサ(AIRBOSS?)と統制装置によって構成される、機上早期警戒センサシステムというわけである。
開発線表は22年〜26年の5年間が研究試作となっており、24年〜29年の6年間が試験にあてられる。
経費総額は約98億円とされており、22年度要求額は約26億円とのこと。


とりあえず各要素についてはあまり不安要素は無い。
機上大型AESAについては既にHPS-106があり、大型化しやすい冷媒冷却方式の空中線部や複数の空中線部を統制する信号処理器などAEW用センサの予習たり得る構成だからだ。
AIRBOSSについても2度に渡るBMD演習での探知成功など、研究開発の状況は良好である。
パッシブレーダ方式は実物を用いた実験に成功しており、要素技術として十分な域にあると思われる。
問題は3種類の方式を用いたセンサで得られる信号をどの様に処理するか、これが最も重要な研究対象であろう。


実際に装備化する場合の搭載機は現時点では判らないが、搭載母機については「大型機」と表現している。
イメージ図のAIRBOSSの大きさから推測すると737クラスの機体であると予想される、となると当然浮かび上がってくるのがP-1だ。
P-1を搭載母機とする場合に有利なのが、機首と尾部にHPS-106の空中線マウント部が設けられていること。
ここに空中線部を設置することで、MESAの様に無理やりな方法を採らずとも前後方向のレーダー視界を確保できるからだ。
他にもFBLや発電能力、ペイロードレンジ及び滞空時間などセンサ母機としては有利な点が多い。
問題は機内床面積で、必要とされる数のコンソールを無理なく積めるかどうかだ。
そしてこの必要なコンソール数というのが、このシステムについては難しい。
少なくともAIRBOSSが有る分だけ旧来のAEWよりもオペレータの人数は増えるだろうし、空自が要求する管制能力がどの程度なのかも判然としないからだ。
ちなみに原型のP-1ではTACCO席とセンサ席合わせて6人分のコンソールが設置されている。
という訳で(どういう訳で?)AEW化したP-1を見てみよう。


http://www.heinkel.jp/images/p1aew1.jpg
http://www.heinkel.jp/images/p1aew2.jpg
ご覧の通り胴体上面に巨大なフェアリングを配置、尾部まで覆って垂直安定板を上方に移動してる。
フェアリング前方にはAIRBOSSのタレットを設置、下の微妙に膨らんでるフェアリング内部はSATCOMのアンテナ。
胴体側面にあったバブルウィンドウは閉塞、ソノブイランチャと爆弾倉も撤去である。
それ以外には特に変更は無い。


http://www.heinkel.jp/images/p1aew3.jpg
http://www.heinkel.jp/images/p1aew4.jpg
内部はご覧の通りで、非常脱出口より後ろの赤い床で示した箇所は信号処理器をはじめとする各種アヴィオニクスに充てられる。
後部休憩区画とコクピット区画は一切変更無し、コクピット後方から非常脱出口の前までがコンソール区画となる。
コンソール配置は3通り考えられる。
一つはP-1の配置を踏襲し、センサ席を増設して計7席とするもの。
コンソール画面が上下に二つ並んだ高機能なものであるが、このプランだとオペレータ一人当たりの情報量が多くなる。
二つ目はE-3や737AEW&Cなどに見られる画面一つのコンソールを向かい合わせに並べたもの。
ゲーセン配置とでも言おうか、この配置だと非常脱出口との兼ね合いで計11席になる。
オペレータ一人当たりの情報量は減るが、オペレータの人数自体は増加する。
ただしキャビン内の移動が相当不便になるのは否めない。
三つ目は先のゲーセン配置を少し弄ったもので、右舷側のコンソール1列を切り離して真ん中に通路を設けたもの。
どれが適当であるかは判らないが、うまくやればコンソールが11個設けられるとは言えよう。
爆弾倉とソノブイランチャの位置は燃料タンクか、さもなくば与圧の不要な各種補助機器類に充てられる。
容積はそれぞれ約11立方m程度で、合計2万リットル程度の燃料を収められる。
翼内燃料容量が推定4万リットルなので、全て燃料に充てると航続距離は1.5倍にもなるという計算だ。
ただし燃料重量も1.5倍となり、アヴィオニクス等に充てるべきペイロードが無くなる恐れも有る。
JP-4の比重0.8で計算した場合、約16tも燃料重量が増加することになる。
基本離陸重量80tのP-1にとって、計48tもの燃料は過大であると考えられる。
レーダはメインとなる大型アレイが胴体上面フェアリング内に、前後をカバーする中型アレイが機首と尾部に配置される。
機首部のアレイはHPS-106と大差ないが、尾部アレイは基部拡大に伴い縦長となる配置を採っている。
アレイの形状はHPS-106同様に長方形である。


ちなみにこれをお師匠に見せたら紅茶中毒?と聞かれてしまった。
原型のP-1の時点で既に英国面が顔を覗かせてるのに、"ちょっと"改造しただけで英国病患者扱いとは誠に遺憾である。
本当は機首レドーム基部もEC-1みたいに横に広げようと思ったけど自重したんだよ?

値段の話2年目

去年に続いて公表されたライフサイクルコスト管理年次報告書
待ちに待ったC-2と新戦車が追加されたので早速比較してみるとしよう。

機数 運用期間 LCC 1機当りLCC 1年当りLCC 1機1年当りLCC
P-1(H20) 約70機 約20年 2兆2850億円 約326億円 1142億5000万円 約16億円
P-8A(FY04) 108機 25年 440億ドル 約4億ドル 17億6000万ドル 約1629万ドル
A400M(0812) 50機 30年 100億ユーロ 2億ユーロ 約3億3333万ユーロ 約666万ユーロ
F-2(H20) 94機 約30年 3兆3467億円 約356億円 約1115億円 約11億円
C-2(H21) 約40機 約40年 約1兆7296億円 約432億円 約432億円 約10億円
新戦車(H21) 約600機 約30年 約1兆813億円 約18億円 約360億円 約6000万円


流石にP-1より安いが、A400Mの計画値に比べると高め。
現在の見積もり値は調べてたらキリが無いので考えないことにしよう。
ちなみにC-2の本体価格は1機130億7000万円、生産ラインコストが別に初度費として264億円と見積もられている。
P-1は生産ラインコスト込みで1機127億5428万円、機体サイズの差がアヴィオニクスの差を上回ってる模様。
研究〜開発段階の費用は両機合わせて5071億円、試作品費を足すと3429億円になるので巷で言われる開発費はこれを指しているのではないだろうか。
運用・維持段階の費用はP-1が1兆895億円であるのに対し、C-2は9760億円と若干安い。
これを1機辺りの年間費とするとP-1は7億7821万円、C-2は6億1000万円と明らかに安いことがわかる。
燃料費はP-1が3098億円でC-2は2546億円、補正するとそれぞれ2億2128万円と1億5912万円となる。
別にP-1の燃費が極端に悪いはずも無いし、最大燃料搭載量はC-2の方が倍くらいある。
にも拘らずこうも燃料費が違うのは、C-2が平時運用では長距離飛行しないと見積もられているからだ。
C-2は燃料満載で10,000km飛行可能だが、国内の定期便運用でそんな距離を飛行することはありえない。
千歳から那覇まで飛んだとしても2,300km程度、途中で硫黄島を経由したって3,400kmくらいしか飛ばない。
つまり定期便で使用する燃料は、余裕を持って見ても満載時の半分以下でしかないのだ。
一方でP-1の場合は進出先の洋上でグルグルと滞空するので、普段から満載に近い量の燃料を消費する。
仮に那覇から東シナ海に進出するとしても、進出距離が短くなった分は哨戒時間に振り分けられてしまう。
性能向上により機数減少は相殺される、とは言うがその結果は1機辺りの飛行距離増大という訳だ。


そういえば取得開始が23年度になってるね。