勝手に夢を見せられてはたまったものじゃない

特集と言いながらいい加減の巻

以前F7-10はリージョナルジェットの夢を見るか - CHFの日記-と言う名の駄文倉庫という記事を書いた訳だが、当たり前だがF7-10はそのまま民間に売り出せるエンジンではない。
材料レベルでの塩害対策など民間では意味の無いことだし、これを変更するなら作り直しと同じである。
そしてF7-10は現時点でこそ最新鋭のエンジンであるが、あと5年から10年で最新鋭でなくなることは確実と言える。
何故なら開発を担当したIHIが、経産省と9000ポンド級ターボファンエンジンを開発しているからだ。
環境適応型小型航空機用エンジン、通称「エコエンジン」プロジェクトと呼ばれるこの事業は、50席級リージョナル機向けのエンジン開発を目指したものである。
2003年開始のエコエンジンプロジェクトは2007年から2010年に掛けて実証開発フェーズに以降しており、2010年以降に実機開発が想定されている。
現在はXF7-1に相当するフェーズで、F7-10に相当するものはもう少し先の話と言うわけだ。
エコエンジンは突き詰めて言えば、ファンやコンプレッサーなどの各要素を高効率化によって単純化することで、整備運航費の削減を目指したエンジンである。
門外漢として最も目を引くのは、ゼロハブチップレシオファンと呼ばれる要素技術であろう。
これはハブ側と呼ばれるファンブレードの根元部分を前方に延長することで、エンジンコアへの流入量を高める技術だ。
要するに、従来ならファンコンプレッサー段の後ろに並んでいた低圧コンプレッサー段を丸ごと無くして、ファンコンプレッサー段で圧縮してしまおうという訳である。
ちなみに流量が増えるのはバイパス側も同じ、と言う訳で直径を拡大せずにバイパス比を向上させることも可能だそうな。
他にも高圧コンプレッサー段やタービンの段数削減など、F7-10より更に進んだ技術が垣間見えるので興味があれば報告書などを見ていただきたい。


で問題はこのエコエンジンとF7-10が度々混同される、ということだ。
例えばカナダのとあるサイトではP-1について纏めた記事で、F7-10としてエコエンジンのナセル付きDMUイメージが載ってしまっている。
大学の研究室レベル、それも恐らく日本語が読めないであろう者の複数あるMPAについて纏めたものの一部、だからまだ良い。
日本の経済誌で特集組んでこの二つを混同しやがった週刊誌がある。
9/20の週刊東洋経済のことだ。

IHIは10年代の後半をメドに「50席クラスの航空機のエンジンを開発する」ことを掲げてきた。IHI自身、明言しないが、XF7を民間転用できれば、50席のリージョナル機用エンジンに至る"漸進"的な道筋が見えるはずだった。

明言しないのも当たり前、エコエンジンの開発成果が現れれば途端に商品価値を失うF7-10を何で民間に売らなきゃならんのか。
エアラインや機体メーカーにしても、エコエンジンの市場調査をしてる横でF7-10なんて売りに来られても反応に困るだろうに。
そもそも経産省のプロジェクトを無視してV2500の次がF7-10であるかの如く解説してるが、経産省防衛省のプロジェクトは別物だ。
でもって久しぶりにと言うかまたかと言うか、ゲルのP-1に関するコメントが載っていた。

XPは将来、民間転用も視野に入れているのに、エンジンは双発ではなく4発にする、と言う。今どき、なぜ、経済性で劣る4発なのか。「海自の幹部は『4発はパイロットの安心感です。これに命を懸けるパイロットの気持ち、わかりませんか』と言う。2年間、大喧嘩した。わかった、あなた方が国益、防衛力、パイロットを考え、それでも国産4発がいい、と言うなら、そうしよう。ただし、私が発言したことを記録しておいてくれ」(石破氏)

恐らくYPXのことだろう、というか他に思いつかない。
周知の通り、YPXは転用どころか事実上の新設計機で、字義通りの転用機などではない。
そもそも経産省が14年から始めたYPXプロジェクトは100席クラスで、海幕が求めたMPAよりも機体規模は一回り小さい。
ゲルは恐らくP-8Aの逆を考えたのだろうが、MPAと旅客輸送機を安易に結びつけることの愚は散々指摘されている通りだ。
4発となったのはまさにその象徴的な例で、MPAの運用環境がどれほど危険で厳しいものになっているのか、海自幹部の言葉はそれを良く表している。
これに前後する記事本文も負けず劣らず酷いものだ。
IHIは冒険を避ける為に4発化を望んだ、と言わんばかりで安全運転するIHIを非難してる。
事実がそうでないことはP-1とF7-10、そしてXF7-1の開発線表を見れば一目瞭然であろう。
XF7-1の所内試験が終わったのは14年度のこと、P-1開発開始から1年経った後だ。
F7-10に至ってはPFRTを完了させたのがXP-1初飛行の1ヶ月前、もしエンジン側の試験で躓いていたらXP-1でもA400Mと同じ状況に陥っていたのだ。


そもそもエンジンの装備数は機体側の運用プロファイルによって決定されるもので、推力面で双発に出来ますよと言って双発にするものではない。
A330が双発でありながらA340が4発を選んだのはETOPSルールに縛らない為だし、P-1と兄弟機でありながらより機体規模が大きいC-2が双発なのはターンアラウンドタイム短縮による運用効率向上を重要視したがゆえ。
逆にP-1が4発となったのは、大型機でありながら平時有事問わず経空脅威に晒されながら最前線を長時間飛行する、MPAとしての宿命によるもの。
安易に経済性を理由として双発にしたとしよう、双発となったがゆえに前線での残存性が低下すれば、それは任務達成能力の低下を意味する。
事故や攻撃による損失のリスクが高まれば、運用プロファイルもそれに合わせて制限せざるを得ず、最終的には経済性も低下する。
経済性を理由に性能を妥協すれば却って経済性は悪化する、ということも往々にしてあるのだ。