足の長さは大事ですよ

哨戒時間の話

やれジェット化で航続距離が減っただの滞空時間が短くなっただのと言われるP-1であるが、航続距離は少なくとも減ってない。
http://www.mod.go.jp/j/library/archives/yosan/2002/gaiyou.pdf
http://www.history.navy.mil/planes/p-3c.pdf
公表されてる8000kmという数字がフェリーレンジでないことは明白で、P-3Cのフェリーレンジもwikipedia等の数字とは明らかにズレがある。
では滞空時間はどうであろうか、と言う訳で並べて計算だ。
計算式は単純に航続距離/巡航速度=滞空時間である。

航続距離 巡航速度 滞空時間
P-1 8000km 830km/h 約9.6時間
P-3C 6600km 620km/h 約10.6時間
P-8A 7700km 815km/h 約9.4時間


と言う訳で1時間ほど短くなってるのが判るであろう。
がしかし哨戒機の滞空時間で問題となるのは進出した先での滞空時間のみであり、これが確保できれば問題はない。
ではどのくらいの哨戒時間になるのか、何通りかの進出距離で計算してみよう。
計算式は滞空時間-((進出距離*2)/巡航速度)で、進出距離は3通り想定してみる。

進出距離 1200km 2222km 2300km
P-1 6.7時間 4.2時間 4時間
P-3C 6.7時間 3.4時間 3.2時間
P-8A 6.5時間 4時間 3.8時間

2222kmは唯一見つかったP-8Aの進出距離で、付記されていた哨戒時間は4時間である。
http://www.navy.mil/navydata/fact_display.asp?cid=1100&tid=1300&ct=1
ちなみに上の7700kmという数字はこっから逆算したもの。
1200kmはP-1とP-3Cの哨戒時間がほぼ一致する進出距離で、これを境目に両機の哨戒時間は逆転する。
つまり近場の哨戒では殆ど差が付かないか若干P-1が劣るが、遠方に進出するほどP-1の方が有利になると言う訳である。
最後の2300kmはP-1の哨戒時間が許容範囲ギリギリの4時間となる進出距離で、これは八戸からカムチャッカ半島あたりまでカバー可能な数値だ。


勿論、実際の進出距離や哨戒時間がこの通りにならないのはP-3Cのデータを見れば判るであろう、というかpdfのデータと明らかに一致してない。
搭載する兵装によってP-3Cの総飛行距離は6600kmを上回る場合が多いし、そもそもP-3Cは進出した先で速度を落としたりエンジンを止めたりするので実際の哨戒時間は計算値よりも増える。
さてこれをターボファンのP-1に当て嵌められることは可能か、と言うと微妙なところ。
ターボファン常に全力全壊スロットルを絞っても燃料消費があまり変化しないという、嬉しくない特性がある。
また再始動がターボプロップより面倒なので完全に停止させるというのも考え難いし、同機の運用で想定されるシチュエーションでは逆に速度を落とした方が危険な状況もある。
最も判りやすいシチュエーションが不審船舶への接近で、低速で接近した場合に不審船舶側へMANPADSなどの対空火器使用に十分なリアクションタイムを与えてしまう危険性が指摘出来る。
そもそも海上低空でエンジンを止めてしまうというのは幾ら4発機でもリスクが大き過ぎるし、折角の冗長性を自ら殺すとは考え難い。
ついでに言えば哨戒時間こそ減る場合もあるが、哨戒距離は元の速度と航続距離が伸びた分だけ確実に伸びる、要するに同じ哨戒時間でも哨戒する範囲は増えると言う訳だ。
上記表の通り2300kmあたりまでは確実に必要な哨戒時間が得られており、6600kmの条件に符合するP-3Cのプロファイルと比較してもまだ若干の余裕があるのでP-1の哨戒時間は必要十分な数値を有していると思われる。
本当はNimrodのデータと比較すべきなんだが、同一条件で比較したデータなんて存在しないし。


P-8A続報

さて、なんかもう毎度のようにボロクソ言われ放題のP-8Aだが、Flight Internationalから更に悪いお知らせだ。
http://www.flightglobal.com/articles/2008/06/06/224506/boeing-gets-closer-to-p-8a-power-on-epx-decisions.html

Boeing had made three major design changes since contract award. First, maximum take-off weight has grown by 1,680kg (3,700lb) to extend range by increasing the fuel load.

At the same time, the navy is reducing weight and complexity by removing a secondary sensor called the magnetic anomaly detector. Perhaps to compensate, Boeing plans to demonstrate launching a captive-carriage ScanEagle unmanned aircraft system from the P-8A. The ScanEagle will be equipped with a magnetometer to lock on to a submarine and track it for up to 24h.

Finally, Boeing replaced the P-8As original blended winglets with raked wingtips to meet de-icing requirements. The 737 is not designed to operate in icing conditions for more than 30min, but the P-8A must endure such conditions for up to 3h.


一つ目のパラグラフは要するに、めっちゃ長い航続距離(1万kmくらい)を実現する為に離陸重量を1.68tほど増やして燃料を増やしましたよと、これは前回の通り。
一個飛ばして三つ目のパラグラフは、わりと前々から言われていた通りブレンデッドウィングレットの代わりにレイクドウィングチップを使いますよ、という話。
問題は二つ目のパラグラフで、燃料を増やす為にMAD-磁気探知機を降ろしてダイエットとシステムなり構造なりを簡易化しますよ、という話。
ASWの要とも言えるMADを軽量化の為に外す、という時点でもう理解し難い話なのだが、更に度し難いのは代わりにScanEagleを載せてMADによる探査をやらせようという提案。
MADが重いと言って外したのに更に重いUAVを載せて空中発進とはどう考えても本末転倒で、Boeingが何を考えているのかもはや理解できない。
しかもこんな提案をしているということは、BoeingはMADの必要性自体は認めているということであり、他のミッションペイロードにMAD無しで高度なASWオペレーションを実現する先進性は無いと暗に言っているようなもの。
ちなみにBoeingがMMAに737を提案した時の売り文句に機内キャパシティの多さによる拡張性の高さを挙げていたが、重量キャパシティが初めからゼロではただのデッドスペースにしかならないだろうに。


Seattle Timesではこれに加えてこんな感じの話も。
http://seattletimes.nwsource.com/html/businesstechnology/2004399846_poseidon08.html

Five torpedoes

Doors on the underbelly open to reveal attachments for five large torpedoes. Holes in the fuselage behind that bomb bay are the launching tubes for sonobuoys ? listening devices that float just under the surface of the sea. Weapon stations on the wings will carry missiles.


爆弾層に短魚雷を5本積む、という話であるが、問題はこれが最大搭載本数なのではということ。
5本というのは機体規模を考えると明らかに少ないが、胴体後部に増設された燃料タンクによって爆弾倉のスペースが圧迫されているとすれば判らなくも無い。
参考までにP-3Cの最大搭載本数は爆弾倉に8本、外部パイロンに非投下限定で10本、P-1は配分がわからないがP-3Cと同等。
Atlantiqueは8本、Nimrodは9本、P2V-7は4本とのこと。


ところでこの一連の記事を翻訳した毎度お馴染み?のJANであるが、こんなことを書いてる。
http://www.aviationnews.jp/2008/07/p8am_cf37.html

また、胴体外面に取付けていた多数の高周波帯アンテナは胴体表面に組込み、コンフォーマル化して抵抗を減らす。また、両翼下面に計4箇所予定していた攻撃兵器取付け用パイロンを2個にして抵抗減を図る。


多分ソースはこのあたりだろう。
http://seattlepi.nwsource.com/business/360813_boeing28.html
http://www.b737.org.uk/mma.htm

It also has two pylons under each wing for weapons.


「各主翼下に2基づつ」と読めるるのは気のせいだろうか。
Seattle Tymesのイメージにもしっかり片2基の武装パイロンが描かれているし。(逆にMADは何処にも描かれていない)
http://seattletimes.nwsource.com/ABPub/2008/05/08/2004400257.pdf
第一胴体下パイロンと爆弾倉の推定分と併せて搭載量6t以下というのは、P-3Cが9tであったことを考えると少な過ぎると言わざるを得ない。
まぁNimrodなんかは4.5tしかないらしいし、Il-38もあれで5tしかないということだから、設計がアレだとこんなもんだということなのかも知れないが。


コンフォーマルアンテナというのも判らない、上のイメージではそんなもの何処にも描かれていないし、胴体上面にはブレードアンテナが行儀良く整列しているし。
製造ラインに乗ってる胴体上面にもブレードアンテナが確認出来るし、その横にはT字状の違うアンテナも林立している。(ところでなんだっけこれ)
http://www.boeing.com/defense-space/military/p8a/news/2008/q3/080701b_pr.html
http://seattletimes.nwsource.com/ABPub/zoom/html/2004399935.html
そもそも抗力抑制が期待できる本格的なコンフォーマルアンテナなんて胴体に実装したら、でかい開口部周辺の補強で更に重量増加すること請け合い。
機体構造の更なる設計変更も迫られる訳で、納期短縮を迫られているBoeingからすれば冗談じゃなかろうに。
んな訳で胴体にコンフォーマルアンテナを仕込んでるというのはどう考えても有り得ない。
一応こういうものがP-8A用に開発されていたらしいが、これはSATCOM用の技術でP-8Aの場合は垂直安定板頂部に実装されているに過ぎず、書かれている通り低コストを狙った簡易タイプのシロモノ。
http://www.navysbir.com/n06_2/n062-117.htm
何と言うか、実機の写真見れば判るだろう、としか言えないなもう。