哨戒機と無人機

表題の示すところの哨戒機と無人機は、勿論MMAことP-8Aと先日目出度く選定されたBAMSことRQ-4Nである。
両プロジェクトはある意味セットで語られる存在であるが、どちらも中途半端に理解されていること暫し。
とりあえずMMAについては今までにも散々語ってるので今回は割愛、BAMSの方に絞って適当に見ていこうと思う。


Broad Area Maritime Surveillance - BAMSとはその名の通り無人航空機による広域海洋哨戒システムで、Northrop Grummanの提案するRQ-4 Grobal Hawkがベースとして選定されたのは記憶に新しい。
前述の通りBAMSはMMAとセットであるかの如く扱われることが多く、酷い場合にはMMAの低空哨戒能力を補間する=低空飛行するなどという解説すら見受けられる。
RQ-4がベース機として選定されたことを見れば判るとおり、BAMSの運用コンセプトに低空飛行など無い、ばかりかMMAより遥か上空6万フィート以上を飛行するものだ。
確かにMMAの低空域におけるエンベローブ及び残存性には問題が無いとは言い難いが、大型滞空型無人機に同じことをさせるよりは遥かにマシである。
MMAがBAMSによる補間を期待するのは、進出範囲と滞空時間の二点である。


BAMSのコンセプトは即ち海洋の広域を長時間連続的に監視するというもので、MMAはBAMSから提供される情報を元に進出範囲を絞り込むというものだ。
このコンセプトは連続的な海洋監視網を広範囲に対して提供できるというものであるが、監視網の精度はプラットフォームのセンサと滞空高度による制約を受ける。
つまりセンサが同一であれば低高度に降りた方が精度も高くなるということで、高高度から高精度の情報を得るには逆に高度なセンサを要求するということでもあるのだ。
(逆に広範な視界を得るには高高度である方が有利なのだが)
極めつけはペイロードの差で、現状最大クラスのRQ-4でさえ離陸重量は15t程度に過ぎず、センサペイロードは860kgでしかない。
つまりバックエンド含めて185kgのAN/APY-10対水上レーダーを搭載した場合、これだけでペイロードの20%に達してしまうのだ。
固定翼哨戒機用のソノブイも1本10kg前後の重量が有るが、P-3Cが100本ものソノブイを搭載することを考えればRQ-4のペイロードはあまりにも少な過ぎると言って良い。
哨戒機は電波に地磁気、可視/不可視光波に水中音波とセンサだけでも多岐に渡る種類を要求し、これにミッションコンピュータや武装などを加えれば必要なペイロードは膨大である。
RQ-4クラスのUAVをもってしても、固定翼哨戒機の完全な代替、どころかセンサに限定しての代替も不可能なのが現状だ。
BAMSが搭載するのは電波及び光波センサのみで、哨戒機に課せられた任務の大半は従来通り有人のMMAで実施しなければならない。


またBAMSはなにもP-8A専属UAVというわけでなくではなく、海軍に属する水上艦艇や海兵などといった他のユニットともデータ交換が可能である。
BAMSのデータ交換に使われるインターフェイスはSATCOMやINMARSAT、Link16といった極普通のものであり、フォーマットさえ対応していれば従来のP-3Cでもデータ交換は可能である。
要するにBAMSは軍全体の情報インフラの一つであって、P-8Aに付属する専用ユニットなどではないのだ。
そもそも**(任意のユニット名)に対応してるから先進性を有する、などと言うのは既存装備と**をインテグレートした時点で先進的でも何でもなくなってしまう代物であろう。
勿論、物理的制約などによって他の装備ではインテグレート不可能な場合もあろうが、それはそれで既存装備との適合性に欠けると全く正反対の批判を受けることになる。
BAMSは少なくとも広範なユニットとのインテグレートを目指しており、P-8A単体の先進性を確保するようなアイテムでは残念ながら無いのだ。
そんなP-8Aと搭載機材の相互運用性を確保しているP-1が、BAMSのネットワークとどう付き合っていくのかはまた別の問題であるが。


ついでに「低空哨戒を補間するUAV」について。
MMAに付随する無人機には低空哨戒の補間以外に、MMAからの指令誘導やMMAへの搭載及び空中発進などといった説明も時たま出てくる。
これらがBAMSを指し示していないのは明白で、恐らく以下に示す超小型無人飛翔体と混同していると思われる。
http://www.designation-systems.net/dusrm/app4/coyote.html
CoyoteはいわゆるマイクロUAVの一種で、哨戒機のソノブイランチャから射出するタイプである。
ただしこれも残念ながらMMA専用アイテムではなく、既存のものから将来に至るまでP-3Cと同タイプのソノブイランチャ全般への適合を目指したものである。
(そもそも専用アイテムなら専用ランチャを別に用意するだろう)
搭載するセンサは使い捨て可能な価格に収める必要から安価な既存品を採用するとしており、ソニーFCB-IX10AデジタルカメラかBAEのSCC500非冷却赤外線カメラが想定されている。
(ちなみにFCB-IX10Aは民間でも監視カメラ用組み込み機として普通に販売されてる代物)
そんな訳で、センサとしての能力は限定的と言わざるを得ないこのマイクロUAVだが、そもそも実用化するかどうかも現時点ではサッパリである。
どうせ母機のペイロードを食い潰すなら、無人機研究システムをそのまま翼下パイロンに吊った方が良い気も。
再使用可能なのでセンサもずっと良いものが使えるし、固定翼哨戒機以外の作戦機でも吊るせるのでオイラはこっちの方がええんでねーかと。
(もっとも母機とのインテグレートは大きさが大きさなだけに普通の誘導弾よりも面倒そうだが)