再び民間転用の話
なんでもC-2の民間転用は与太らしい、高翼の軍用貨物機は民間機よりも遅く、重くて燃費も悪いからだそうだ。
更に民間の航空貨物はコンテナやパレットで規格化されており、トラックにそのまま荷物を積んで空輸するなんて非効率的、こんな与太記事を信じちゃいけないんだそうな。
たったこれだけの短さで三つ四つも突っ込みどころがある内容だが、これを書いたのは自称軍事ライターこと清谷信一氏である。
諸君4月号に掲載されたMRJ批判文の一部であるが、この部分以外にも突っ込みどころ満載なので奇特な方は是非とも購入してレビューして頂きたい。
まぁこのC-2関係の一説は自称軍事ライターさんが自分のブログでC-X民転報道時に書いた内容そのまんま、その時に貰っていた突っ込みのフィードバックも一切無しなので購入する価値があるかは疑わしいが。
速度と燃費については今更ごちゃごちゃと言うまでもないであろう、そんなものは得られる機能とトレードオフでしかないのだから。
規格外貨物への対応能力を得ることで代わりに失うものがある、それが燃費であったり速度であったりするのは当たり前のことである。
極端な例として、747LCFやA300-600STの速度や航続距離等のデータを見れば判るであろう。
それぞれのベース機よりもそれらの性能が低下しているにも拘らず両機が開発製造されたのは、そこに確固たる需要があり、それがトータルコストにおいて他の代替手段を退けるだけの優位性を認められたからに他ならない。
即ち燃費と速度のマイナス面を凌駕するだけのプラス面、規格外貨物取り扱い能力がこの特殊用途機には見込まれたのだ。
さてC-2はそもそも遅くないだとか軽いとかいう突っ込みもあろうかと思うが、規格外貨物への対応に加えて高速巡航性能を得た代償に失ったものは全く無い訳ではない。
例えばA400Mと比較すると貨物室長が若干短いし、An-70より最大ペイロードは少ない。
同じエンジンを搭載する767-300FやA300-600Fと比べるとMTOWや最大ペイロードの差は更に大きい。
また積載量40t弱で比較した場合、航続距離5,600kmに過ぎないC-2に対し767-300Fは約8,000kmとなり差は一目瞭然である。
規格外貨物取り扱い能力と高速巡航性能を得た代償が、同じエンジンを搭載した旅客機改造フレイターよりも短いペイロード当り航続距離だ。
と言うよりC-2が失った能力はそれくらいで、あとは軍用輸送機譲りの不整地運用能力に由来する小規模空港での運用性とか、運用者が得るものは多い。
なおC-2のペイロード当り航続距離はだいたい757-200FやDC-8-55Fより若干下回る程度である。
さて自称軍事ライターさんはトラック積みなんて馬鹿らしい、ULD規格があるから無意味だと仰られる訳だが、規格外貨物取り扱い能力の本質が単なるトラック積みなどでないことは明白である。
規格外貨物の事例として当方が度々例に出すのが、2005年にAn-124によって実施されたGE90-94Bの空輸である。
http://www.flightinternational.com/Articles/2006/01/03/Navigation/177/203826/GE+strives+to+identify+Air+France+engine+fault.html
GE90シリーズは普通のフレイターでは積み込むことすら出来ない巨大エンジンで、GE90-115Bに至っては直径3.4mという有様である。
GE90は-115Bだけで世界中で316基が稼動しているが、これを搭載した機がエンジントラブルによって予備エンジンの無い空港に降りた場合、他所から予備エンジンを運び込まなくてはならない。
上の事例は正にそういう状況であった訳だが、ここにC-2が狙える商機の一つを見出すことが出来る。
エンジンの予備は運用面だけ見るなら出来るだけ多く用意して各地に置いておきたいところであるが、経営面からは逆に可能な限り少なくした方が好ましい。
そこで、緊急事態に際して即時に予備エンジンを遠隔地まで輸送する手段があれば、用意する予備エンジンを最小限に抑えながら、多数の予備エンジンを各地に保管しておくのと同様の効果を得られるようになる。
これはまた通常のエンジンメンテナンスに費やされる費用の抑制にも繋がり、トータルで見た場合の効果は計り知れない。
ちなみにGE90に限らず大型機用の高バイパス比ターボファンエンジンはどれもこれも通常のフレイターに積み込むには大き過ぎで、C-2に搭載されるCF6シリーズでさえ747Fを用意しなければ空輸は不可能である。
と言う訳で主用エンジン寸法一覧の登場だ。
直径 | 全長 | 重量 | |
CF6-6 | 266cm | 477cm | 3.7t |
CF6-80C2 | 269cm | 426cm | 4.3t |
CF6-80E1 | 289cm | 426cm | 5.1t |
GP7270 | 316cm | 474cm | 6.7t |
GE90-94B | 340cm | 729cm | 7.5t |
GE90-115B | 342cm | 729cm | 8.2t |
Trent500 | 247cm | 391cm | 4.7t |
Trent800 | 279cm | 436cm | 5.9t |
Trent900 | 294cm | 454cm | 6.2t |
Trent1000 | 284cm | 406cm | 5.4t |
PW4000-94 | 238cm | 337cm | n/a |
PW4000-100 | 254cm | 414cm | n/a |
PW4000-112 | 284cm | 486cm | n/a |
直径がファン直径だったりケース直径だったり、一部重量が無かったりするけど無視して次は主用フレイター機の貨物扉寸法、ただし一番大きいメインデッキ側面扉のみ。
扉幅 | 扉高さ | |
727-200F | 340cm | 218cm |
737-200F | 340cm | 214cm |
747-400F | 340cm | 312cm |
757-200F | 340cm | 218cm |
767-300F | 340cm | 262cm |
300-600F | 358cm | 259cm |
DC8-70F | 355cm | 229cm |
MD11F | 355cm | 259cm |
ご覧の通り、既存のフレイター機で空輸可能な大型ターボファンエンジンは極めて限られている、というより747Fを除けば事実上不可能と言っても良い。
777Fが300cm高の貨物を扱えるとの情報もあるが、現時点では良く判らなかったのでとりあえず無視しておく。
では747F使えば良いだろうと言うとそうもいかない、何しろ747は運用コストでも空港での取り回しでも一苦労する超大型機材なのだ、たかが1基か多くても4基のエンジン空輸のために動かすには逆に過大過ぎる。
同様のことはAn-124にも言えるわけで、ここにこそC-2の入り込む余地があると言って良い。
最大400cm高の貨物を特殊なローダー無しに扱えるばかりでなく、小規模な空港でも運用可能な機体規模と滑走路面に掛かる荷重の低さは、規格外貨物市場で先行するAn-124との競争において好材料となる。
なお最も重いGE90-115Bを2基積んだ場合の積載重量は16.4tとなり、この場合C-2の航続距離は8,000km程度になると推測される。
以上のように一つの市場を開拓し得る能力を秘めたC-2であるが、常に特殊な需要が舞い込んでくるとは限らない。
運用するエアラインとしてみれば、通常のフレイター機と同様のULD規格による貨物輸送も可能ならば実施したいと思うところであろう。
ではULD規格のコンテナやパレットを使用した場合、C-2はどの程度の積載能力を有するのか。
まず前提情報としてC-2の貨物室寸法は全長16m幅4m高さ4mランプ長5.5,mであり、ランプ部を除いた容積は256立方メートルである。
単純に容積だけで比較すると、757Fより若干大きくDC8Fと同程度になり、767Fの2/3かそこいらと言ったところだ。
ものの試しでLD3コンテナ(200*153*162)を2段重ねにして詰め込んだ場合、1列10個の2列2段で40個ということになり、A300-600Fの41個という数字に並んで割りと良い線を言ってるように見える。
ただしあくまで2段積みなんて反則技を使った場合の話で、実際に2段積みが出来る訳ではないし、仮に出来たとしても上に積んだ20個には軽いものしか詰め込めない。
では96インチパレット(243*317)だとどうなるか、悲しいかな中途半端なパレットサイズと短めの貨物室が災いして6枚が限度である。
ハーフパレットと組み合わせればもう少し枚数は稼げるが、それでも5枚+5枚の10枚が限界だ。
そして規格化されたパレットの弱点であるが、貨物の高さがパレットに被せる網に制限されてしまい、折角4mもある貨物室高が無駄になってしまうのである。
まぁ747Fの3mもある貨物室高を活かせる規格も策定されている筈なので言うほど無駄と言うわけでもないが、ULDに適合した"本職"と比較するとC-2が些か見劣りするのはどうしようもない。(747Fと同じコンテナやパレットが使えるのを見劣りすると言い切っても良いかは微妙だが)
ULD規格で運用した場合、使えない機材と言う訳ではないが、それだけならもっと別の機材でも構わないということになる。
勿論、軍用輸送機でありながら使える機材であること自体が、これまでの機体では考えられない画期的なことであるのは何度も繰り返してきた通りだ。
巡航速度一つとっても既存の軍用輸送機では民間エアラインの機材たり得なかったし、機体規模に比してエンジン数が多いことも民間での導入を躊躇させるには十分な理由であった。
また旧ソ連の崩壊により安価な機材が大量に民間市場へと流入したことで規格外貨物需要は着実に伸びてきたが、それらの機材も遠からず代替次期を迎える。
そこに現時点で唯一、民間エアラインが導入可能かつ運用可能な機体として売り込もうとしてるのがC-2なのだ。
まぁ見も蓋もないことを言ってしまうと、自称軍事ライターさんが挙げているBC-17とC-130が売れなかった理由は、規格外貨物需要が無いからじゃなくてどっちも民間的にはゴミみたいな機材というだけの話なんだわな。
C-130の規模(737-900と同クラスだ)で4発なんて民間じゃ有り得ないし、C-17だってA330や777が双発で飛び回ってる昨今じゃなんだそりゃという話である。
それ以前に巡航速度が遅過ぎるという問題もある訳で、それらの問題を初めて克服したC-2が民間に売り込まれるのも当然の流れというもの。
空自がC-2に高い巡航速度を求めた時の表現は正に旅客機のそれと同等であるというものだったが、恐らくはエンジンの数についても民間が双発機を求めるのと同様の理由だと思われる。
エンジン数は単純に多い方が整備点検に時間とコストが掛かり、目的地に到着してから再出発するまでのターンアラウンドタイムが伸びる傾向にある。
F-2が双発ではなく単発となった理由の一つとして正にターンアラウンドタイムの短縮が挙げられるが、C-2についても日常的な運用においてはターアラウンドタイムを短縮した方が好ましいのは言うまでも無い。
再出発するまでの時間が短くなればそれだけ多くの任務をこなせる訳で、民間ならばこれはより多くの収益機会を得ることに繋がる。
C-2の機体コンセプトは、突き詰めていくと民間エアラインが求めてきたものを軍用機の世界にも適用した稀有なものなのだ。
最後に、自称軍事ライターさんが与太だと言い切ってくれたC-2民間転用構想は、当方が確認してるだけでも以下のソースが存在すると指摘出来る。
・2006年ファンボロおよび2007年パリ各エアショーでのKHI製パンフ
・ロールアウト時の航空ファン記事
・航空新聞社WingDiary08年2月18日付け記事
とくに航フの記事は防衛省担当者が記者説明会の席上でKHIに協力すると答えており、極めて具体的な検討が進められていることは容易に推測可能である。
これを与太だと言ったのだから余程の根拠が在るのだろう、まさかこれっぽっちの理由で与太だなんて言った訳じゃあるまい。
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