数字遊びネタ

C-2は双発で良いのか

P-1が洋上低空飛行での生存性確保を目的として4発機になったのは周知のとおり(かどうかは怪しいが)であるが、ならばC-2は双発で良いのかという話が出てくる。
海外のフォーラムでA400Mと同クラスと知った人間が真っ先に疑問に思うのがこれで、A400MやAn-70が4発機なのにC-2は双発で生存性に問題があるのではということだ。
機体規模に関わらず生存性や安全性という観点からはエンジンの数は多い方が望ましいが、これはエンジン停止時に低下する推進力を極限するという理由からである。
詰まるところ1発停止しても飛べるだけの推力が確保できれば十分なのだ。(理想としては高度を維持できるぐらいの推力が必要)
でもってC-2はそれが恐らく可能なだけの推力を有している。
どれだけ知れ渡っているかは不明だが、C-2のエンジン推力は機体重量に比して輸送機としては異常なほど高い。
最大離陸重量141tの機体に対して合計推力は55tにも達し、推重比は0.39にもなる。
また空自での実質的な運用重量となる標準離陸重量120tの場合、推重比は0.45となる。
当然ながら実用化された輸送機でこれに並ぶものは無く、試作機どまりに終わったYC-14が若干超えている(0.40/0.59)に過ぎない。
数字が出てくれば話は簡単で、C-2の片発停止時の推重比は0.195/0.225となる。
これだけでは判りにくいので幾つかの機種の推重比を以下に示す、なお推重比=合計離陸定格推力/最大離陸重量とする。

C-141B 0.24
C-5B 0.20
YC-14 0.40
YC-15 0.29
C-17 0.27
Il-76MD 0.25
An-72A 0.37
An-124 0.22
C-1 0.28
C-2 0.39


表の通り、推重比だけ見ればC-2はC-5Bの実に2倍もの余力があるということになる。
もっとも高度維持には推力だけでなく翼面荷重も関わってくるし、離陸定格推力は文字通り離陸時の5分間しか使えない。(普通は巡航定格推力というものがある)
CF6-80C2K1Fの巡航定格推力は19.6tで、この場合の推重比は0.139/0.163にまで低下する。
推重比が0.139にまでなると流石に正常な飛行は困難となるが、緊急時に確保できる推力として見れば然程悪いとも言えない。
それでも片発停止したまま飛び続けるのは感心できないが、そこは他の機種であっても同様である。
両方とも止まったら?そんな状況に至らせるような運行計画に問題があるとしか言えない。
民間で腐るほど使い倒されたエンジンを載せながらエンストするなどという状況は、異常なほどの経空脅威に晒されるか意味も無く洋上を低空で飛ぶか整備の手を抜いたかぐらいであろう。
あとの二つは論外として、経空脅威に対する対策も自機防御システムの標準装備という形でなされており、これを超えるほどの脅威に晒すような作戦さえ立てなければ問題とはなりえない。
そうして残った懸念材料は陸上低空飛行時のバードストライクとなるが、これは万一発生した時にエンジンが耐えてくれる事を祈るしか無い。
と言う訳でC-2の生存性はエンジンの数によるリスク分散は最低限のレベルだが、片発停止時の余力は確保されていると評価出来る。

空虚重量と最大離陸重量のネタ

飛行機は軽い方が良い、というのは言うまでもないが当たり前だ。
787やMRJがあんだけの苦労とリスクを抱えてまでCFRPの使用拡大を図っているのも、少しでも機体重量を軽くして効率を上げたいが為のこと。
ところでこの機体重量や効率とは何を指すのか、答えは空虚重量と燃料効率及び積載重量である。
同じエンジンに同じ翼面積に同じ形状の機体であれば、空虚重量がより軽い方が燃料や貨物をより多く積めるのは言うまでもないことである。
最大離陸重量は翼面荷重とエンジン推力と機体強度によって決定されるもので、空虚重量が直接影響することはないのだ。
さて航空機の重量は強度とトレードオフの関係にあり、高い強度を持たせようとすれば重量が増加する。
C-2は戦術輸送機であり、しかも低空飛行や不整地運用も要求される為に強度要求は厳しく重量面では極めて不利な筈である。
ここで貨物輸送機の積載重量比率を以下に示す、なお積重比=最大離陸重量/空虚重量運用自重とする。

747-400F 2.41 確認
767-300F 2.16 確認
777F 2.4 確認
A300-600F 2.08 確認
A330-200F 2.08 確認
A380-800F 2.33 確認
A400M 1.95 確認
C-160D 1.63 未確認
C-130H 2.28 確認
C-130J 2.03 確認
C-141B 2.24 未確認
C-5B 2.24 未確認
C-17 2.11 確認
An-70 2.18 未確認
An-124 2.31 確認
An-225 2.77 未確認
Il-76MD 2.06 未確認
C-1 1.86 確認
C-2 2.32 確認

※未確認のものは運用自重ではなく空虚重量で計算している可能性有り


07/12/31追記

パンフを見直したらC-2の60.8tはOperating Weight Empty=運用自重であってEmpty Weight=空虚重量ではなかった。
でもって他の奴は一応Empty Weightの数字を使ったけどOperating Empty Weightと混同してそうなのもチラホラ。
とりあえずC-2に合わせて運用自重で計算し直すことにしたけど、そう簡単に数字が見つかるなら苦労はしない訳で。
まぁ論旨に大きな影響を与えるようでも無いのでこれ以下の修正無し。

要求される強度の小さい戦略輸送機クラスの機体ほど積重比が大きく、強度に対する要求の厳しい戦術輸送機クラスの機体ほど積重比が小さいことが読み取れる筈である。
そんな中にあって、C-2は機体に対する強度要求を考えると異常とも言えるほど積重比が大きいのだ。(An-225は完全に別格)
こうなる理由は二つ考えられる、一つは何度も言っているように機体強度が低く抑えられている可能性。
しかしC-1の後継機として開発要求が出された事を考えるとその可能性は低いし、何よりそれだけでこのような結果が出るとは考えられない。
もう一つの可能性は、従来のアルミ合金より重量比強度に優れた素材が多用されていることである。
しかし複合素材についてはフラップや脚収納庫ドアなどへの使用が言及されているのみで、その適用範囲は限定的である。
そうなると最後に残る可能性はアルミ-リチウム合金の適用範囲拡大であろう。
アルミ-リチウム合金はCFRPほどではないが従来のアルミ合金より強度と重量で優れた特性を持ち、またCFRPと違い従来の製造工程を大幅に変更する必要が無い点が評価されている。
ただしアルミ-リチウム合金はこれまで航空機への大幅な適用は見送られてきており、最近になってようやく実用に耐え得る製品が出荷されるようになったばかりのものである。
幾つかの資料ではA350への適用が最初の多用事例になると言われており、P-1/C-2への適用を言及した資料は見つかっていない。(あるとは聞いてるが未確認)
仮にこれほどの重量低減に結びつくほど多用してるのであれば、A350に先んじての快挙となるが、そういう話を殆ど聞かないのが謎である。
C-2とは別に謎なのがA400Mの積重比の悪さである。
表中最も後発でしかも主翼CFRPを大々的に適用してるにも拘らず、殆ど同じコンセプトでしかも二重反転ペラのAn-70よりも悪いあたり、何か悪いものでも食ったのかと疑ってしまう。
C-17もあまり良い数値とは言えないが、これはEBFフラップやコアンダ効果を狙ったエンジン配置が少なからぬ重量損失を発生させていると言うことで納得できる。
しかしA400Mに関して言えば、明らかに重量損失を生み出すようなコンセプトがあると言う訳でもなく、寧ろエンジン重量やCFRPの大幅適用などを見る限り軽くなる筈だ。(TP400の重量はCF6の半分以下)
それで逆に重くなってるのだから、強度計算が任務に対して適切でないか、新素材の重量と強度に対する見積もりがおかしい可能性が高い。
A400Mの開発スケジュールは随分と忙しいようで、787と同じように静強度試験と飛行試験を殆ど同時に実施するそうだ。
これで強度に問題が出なければ御の字(寧ろ重量超過気味なんじゃないかと思うが)であるが、C-2の様な強度不足があった場合は目も当てられない。
重量にたっぷり余裕のあるC-2だからスケジュール伸ばしという対応で済んでいるが、A400Mで同じことがあっても重量に余裕が無いのでは構造強化のし様がなくなる。
過剰強度の箇所を削れば重量を稼ぐことも出来なくはないが、削れる箇所が例えばCFRP一発整形の主翼だったりした時には悲惨なことになるのは間違いない。

開発費込み調達費

何だかんだでP-1の調達要求は認められた訳だが、今のところ唯一ライバルとなり得るP-8Aについてはまだ調達費用が算出可能な段階に至っていない。
その代わりと言うか、単価+1機当りの開発費という形でPCU*1がDIAにて公開されている。
http://www.defenseindustrydaily.com/defenseaerospace-estimates-us-aircraft-costs-03227/
これによればP-8AのPCUは調達数114機の場合で2億8660万ドル、日本円で300億円以上ということになる。
P-1の調達単価は初年度で170億円、米ドルではおよそ1億5000万ドル程度。
さてここでP-1のPCUを幾つかの条件で算出してみよう、なお開発費は3500億円とする。

P-1調達数 C-2調達数 各派生型 PCU(円)
70機 0機 0機 220億
70機 30機 0機 205億
80機 40機 20機 195億


P-1のPCUは195億〜220億ということになり、最悪C-2の調達数が減ってもなおP-8Aより安く付くというわけである。
そんなP-8Aだが、初めからこんな馬鹿みたいに高かった訳ではない。
http://www.strategypage.com/htmw/htproc/articles/20060514.aspx
計画開始当初のPCUは1億9000万ドル、本体単価も1億2600万ドルに過ぎなかったのだ。
それが2006年には2億4700万ドルにまで高騰、2007年には上述の通り2億8660万ドルにまでなってしまったのだから酷いものである。
もっとも、計画開始当初のPCUでも現在のP-1のPCUと大差無いことを考えると、一般に言われているほどリーズナブルな計画ではなかったのかもしれない。
最近になってインド海軍に提案された本体単価は2億5125万ドルということであるが、仮にこれがPCUだとしても余りに高過ぎると言うものだ。*2
同じニュースでA320ASWの価格は2億ドルと提示されているが、絵餅な上に全く同じコンセプトのP-8Aの惨状を見ると説得力の無い数字である。
というかBAEはニムロッドの売込みを諦めたのだろうか、変な改造機作るよりよっぽど確実な商売だと思うのだが。