FX選定についての覚え書き

現時点ではF-4EJ改後継機についての決定的な情報は防衛庁からは何も出されていない。
従って、以下に書かれる事は現時点での外野からの視点による分析でしかなく、決定的な要素は何一つ無いという事を予め断っておく。


FXに求められるべきものは基本的に、FI*1任務において必要な性能が現在の主力であるF-15Jと同程度か上回るものであるということだ。
以下にFXとして必要と思われる条件を列挙する。
・高高度まで上昇し敵機に対して優位な位置を占めることが出来る高空域性能
・日本の領空を無給油でカバー出来る長大な航続力
・戦闘空域まで短時間で進出出来るダッシュ
・現行装備体系に合致したものであること
・国内産業維持育成を考慮したものであること
・向こう30年に渡っての使用に耐え得るものであること
以上を念頭に置いた上で、FX候補機をそれぞれ検証していく。


まず現時点で挙げられているFX*2候補の中で、明らかに当て馬としかなり得ないものを列挙していく。
・サーブJAS39グリペン
ダッソー・ラファール
スホーイSu-27/30フランカー
まずグリペンについては航続距離や搭載量でF-4EJにすら劣る為、論外である。
ラファールとフランカーについては、何れも装備体系や整備環境を新規に導入しなければならず、トータルコストが明らかに高騰する為である。
次に現時点で有力視されている候補を列挙する。
ロッキード・マーチンF/A-22ラプター
・三菱/ロッキード・マーチンF-2
ロッキード・マーチンF-35
ボーイングF-15Eストライクイーグル
ボーイングF/A-18Eスーパーホーネット
・ユーロファイターEF-2000タイフーン
まずこの中で、F-35はFX選定にスケジュールが間に合わない事から除外される。
次にタイフーンもラファールに近い問題がある他、開発スケジュールが難航しているなど先行き不透明である事から可能性は低い。
以上の過程を経て残った四機種が、FX選定における議論で最も有力視されている機体である。


まずボーイング社が推す二機種から見ていくと、何れの性能も空自のFXの用件を満たしているとは言い難い。
ストライクイーグルは既に配備されているF-15Jに対して制空戦闘機としての優位点は何も無く、寧ろある面では性能が劣るとさえ言われている。
これはC/D型からE型への改造に当たって、機体構造の60%前後を再設計し構造強化を図ったことに起因するもので、CFT*3などを取り外したクリーン状態でもC/D型より重量が増加している。
これによって高空域までの上昇速度が低下したと言われ、実用上昇限度の低下もカタログ上で確認できる数値となっている。
スーパーホーネットはF-15JはおろかF-2にすら劣る面があり、FSX*4ならば未だしもFXでは力不足の感が否めない。
艦載機である都合上航続距離が短く、実用上昇限度はF-2や前途のストライクイーグルを更に大きく下回る。
またYF-17を二度も再設計した無理が祟り、主翼内側のパイロンを斜めに取り付けるという打算的な設計が本機では行われている。
上から見たときに逆八の字となるこの配置の為に空力特性は非常に悪く、これが機体性能全体に影響する結果となっている。
そして両機の売込みにおいて盛んに取り上げられる対地対艦兵装運用能力の豊富さについては、今回のFX選定において全く必要の無い能力でしかない。
FS*5任務は既にF-2によって行われており、次世代主力戦闘機にまでそのような能力は求められていないのだ。
そもそもFXの本業であるFI任務が満足にこなせない様では、幾ら付加価値を付けたところで問題外である。


次にロッキード・マーチン社が絡む二機種に目を移す。
まずF-2は、公開されている戦闘行動半径が対艦攻撃ミッション時のものであるという点を考慮すれば、航続距離については大きな問題は生じない。
AAM-4運用能力については現在行われている関連フォローアップ事業次第となるが、他機種に比べてハードルが低いのは言うまでもない。
低空飛行用に主翼が最適化されている為に高空域での機動性には問題があると思われるが、実用上昇限度は少なくともストライクイーグルよりは上である。
また既に空自で実戦配備につき、今現在も生産が行われているという点は他機種には無い大きなメリットとなり得る。
最後となったラプターであるが、その性能についてはもはや詳しく説明するまでも無いであろう。
F-15イーグルの後継にしてあらゆる戦闘機をも凌駕する性能を求められ、航空支配戦闘機/Air Dominance Fighterとまで称される最強を約束された猛禽類
性能面においては他機種を一切寄せ付けぬ機体である、だが其れゆえの問題が本機には存在する。
第一に、ラプターのライセンス国産が将来的に認められるかどうかという点である。
米国においても最新鋭のこの戦闘機のライセンス権を、如何に有力な同盟国であるとは言え我が国に議会が認めるかという疑念は拭えないのだ。
第二に、防衛予算がラプター購入額に耐えうるかどうかという点である。
中長期においてはイーグルよりもライフルコストが抑えられている為に有利ではあるが、短期的には輸入にしたとしても勢い高額になるのは避けられない。
ただし価格の面ではF-2を除く他機種のライセンス国産でも同様に高騰するのは確実であり、ラプターだけの問題でもない。
またストライクイーグルやスーパーホーネット等第4世代戦闘機のライセンス国産では国内技術の育成には何の足しにもならないが、第5世代戦闘機のラプターをライセンス国産出来れば国内技術の育成に大いに役立つ事は言うまでも無いだろう。
第三に、国産空対空誘導弾AAM-4が現時点ではラプターで搭載運用出来る見通しが立っていないのである。
艦載型のRIM-4次第ではラプターに搭載可能なまでに小型化する事もあり得るが、少なくとも現時点では不可能である。
もっとも空自は既にAMRAAMを研究用に購入した前例があるので、AMRAAMとAAM-4の二本立てで進めていく可能性も無い訳ではない。


以上の事項を元に判断した場合、空自次期主力戦闘機候補として可能性があるのはF-2ラプターの二機種に絞られる事になる。
私個人としてはラプターを採用すべきだと考えている、というのもF-2はあくまで第4世代戦闘機であり、将来30年に渡って仮想敵国に対しての優位性を保てるとは考えられないのだ。
またF-15更新時までにラプターのラインが残っている保障は無く、例えFMSでも今の内にラプターを取得しておく方が望ましいからである。
始めはFMSだったイーグルがライセンス国産に切り替わった経緯を考えれば、ラプターのライセンス国産は全くあり得ないという事でも無い。
可能性としてはF-2ラプターの二機種、希望としてはラプターという結論を持って本稿を締める事とする。

*1:FighterIntercept:対空迎撃

*2:次期主力戦闘機

*3:コンフォーマルタンク:胴体側面に取り付けられた固定式増加燃料タンク

*4:次期支援戦闘機F-2の計画段階での呼称

*5:FighterSupport:対艦攻撃