「こんごう」型対空誘導弾搭載護衛艦

「はたかぜ」型DDG*1に次ぐ第4世代DDGとして昭和63年より建造開始、平成5年から10年までにDDG173「こんごう」以下DDG174「きりしま」DDG175「みょうこう」DDG176「ちょうかい」が就役している。

船体デザインは、それまでの護衛艦からはかけ離れた現代艦らしいスッキリした面構成であり、武装の配置などもより合理的になされている。
また艦隊の防空中枢艦としての機能を求められたため、艦橋は艦の全幅ギリギリと非常に巨大なものとなっている。
主砲にはOTOラメラ製54口径127㎜速射砲、DDGの主兵装とも言うべき対空誘導弾は「スタンダードSM-2MR」が搭載されている。
対空誘導弾は対潜ロケット「アスロック」と共に本型から初めて搭載される「Mk.41VLS」垂直発射機に1セルあたり1発ずつ装填されている。
垂直発射機は艦橋前方の甲板に29セル、艦後部甲板に61セル配置されている。
また「20㎜多銃身機関砲」の配置はこれまでの左右一機づつから前後一機づつになり、より広い射角を確保している。
これ以外にも対艦ミサイル「RGM-84ハープーン」発射機と「3連装短魚雷発射管」も従来通り装備されている。

動力はCOGAG方式*24基2軸で100,000psを発揮し、速力は30kt以上とされている。
排水量は基準排水量が7250t、満載排水量では9485tにも及ぶ一方、乗員数は300名と規模の割には比較的少人数となっている。

「こんごう」型はイージス艦と呼ばれるように、米国製の艦隊戦闘システム「イージスシステム」一式を備えている所にその最大の意味がある。
艦橋の4面に固定装備されたフェイズドアレイレーダー*3SPY-1D」は従来型DDGの対空レーダーを遥かに凌ぐ射程と精度を誇る。
対空誘導弾も終末段階と目標が急激な進路変更した場合以外は慣性誘導によって飛翔し、イルミネーター*4の数以上の目標を迎撃出来なかった従来のものとは一線を画している。
これによって海上自衛隊護衛艦群は高い艦隊防空能力を手にする事が出来たのであるが、これは「イージスシステム」全体の機能からすれば一部を説明しているに過ぎない。
「イージスシステム」の最大の役割は、対空対水上レーダーや対潜ソナーなどの各種センサー、対潜ヘリやAEW*5や他の艦から送られてくる情報を元に敵味方、脅威度の判別評価を行い、予め入力されてある戦闘状況想定プランの中から現況に最も近いものを選び出し、敵への対処時間を大幅に縮める事にある。
例えば爆撃機よりも潜水艦を最も危険な存在と判定すれば、爆撃機からの対艦ミサイルよりも潜水艦からの攻撃への対処を警告するといった具合にである。
本システムは冷戦時代にソ連軍からの飽和攻撃を想定してこれに対処する為に開発されたという経緯があり、「こんごう」型に搭載されたのもやはりソ連軍からの攻撃に対処する為であった。
ただ「こんごう」型が就役したのは既にソ連亡き後であり、一時は無用の長物、金の無駄遣いなどとまで悪評が流れていたが、それらを一蹴する事件が起きた。
平成10年8月31日北朝鮮によって「テポドン1号」が発射されたのであるが、この時に「みょうこう」が探知・追尾を行っていたのである。
この事件を契機に弾道ミサイル迎撃構想へ「こんごう」型を使用する計画が進められ、平成15年度と16年度予算では「こんごう」型二隻分のBMD改修費が承認されている。
また「こんごう」型をベースにデザインと装備の一部を変更してヘリ格納庫を追加し、BMD対応型の「イージスシステム」を搭載する7700tクラスの「14DDG」も建造が進められている。

最後に他の同種の艦と比較すると「こんごう」型は比較的信頼性に富み、また高い指揮中枢能力と移住性を備えたバランスに優れた防空艦と言える。
イージス艦の元祖である「タイコンデロガ」級はレーダー配置等に無理があったが、それを踏まえて建造された「アーレイバーク」級では配置等の点が大きく改善されており、「こんごう」型ではその配置を参考にしたとも言われている程である。
ただ「アーレイバーク」級は空母に随伴するという運用上の違いから、「こんごう」型のような艦隊の中枢機能は求められていない。
これ以外のイージス艦は現在のところスペインの「F-100」級が一隻だけであり、今後は韓国海軍とノルウェー海軍が「イージスシステム」搭載艦を導入する予定である。
イージス艦以外ではフランスやドイツ、イギリスや中国などでフェイズドアレイレーダーを装備する艦隊防空艦が計画建造されているが、何れも能力には疑問符が付く。
最も怪しいのは「イージスシステム」の脅威度判定能力に相当するものが果たして備わっているかどうか、という点である。
と言うのは、戦闘プランのデータベース構築には多大な時間と労力が必要となり、何よりも長年の蓄積が欠かせないからである。
米軍や海自がこれを構築し或いは運用出来るのは、通常の戦闘艦に多大なリソースを費やしてきたからであり、冷戦期に空母にリソースを偏らせていた英仏や陸軍主体だったドイツ中国にその資質があるかどうかは疑わざるを得ないのである。
また「イージスシステム」は現時点で発注されてるものの生産が終わり次第、次世代の新システムに切り替える事になっており、開発は日米共同となる見通しである。
「イージスシステム」の後継システム開発に参加出来る、この事こそが海上自衛隊が「イージスシステム」を完全に使いこなせているという何よりの証拠ではないだろうか。

*1:対空誘導弾搭載護衛艦

*2:巡航用高速用それぞれのガスタービンを併載する方式

*3:従来のように機械的にレーダー面を動かさず電子走査によってリアルタイムでの監視を可能としたレーダー

*4:目標に電波を照射しミサイルを誘導する装置

*5:早期警戒機:E-2Cなどが代表的