ソブレメンヌイ級

計画時呼称「Type956」
1985年にソ連海軍の艦隊打撃力の要として、ズダノフ建造所にてネームシップの「ソブレメンヌイ」が竣工。
以後18隻が現在までに完成しているが、ロシア海軍の現役艦は4隻で、残りはスクラップにされたか外国に売却されたと思われる。


主兵装は艦首と艦尾に130㎜連装砲「AK-130-MR-184」単装対空ミサイル発射機「SA-N-7SAM」をそれぞれ2基搭載、艦橋両舷に4連装対艦ミサイル発射機「SS-N-22SSM4」を2基搭載している。
この他に30㎜近接防御対空砲「AK630」*1を艦橋基部と煙突両脇に4基、533㎜連装魚雷発射菅と6連装対潜ロケット発射機「RBU-1000」がそれぞれ2基搭載されている。
これらの兵装で最も注目を集めたのが、艦橋両舷の巨大な発射機に収められた対艦ミサイル「SS-N-22サンバーン」*2である。
射程は米国の「ハープーン」*3の初期タイプに匹敵する120kmで、巡航速度は「ハープーン」を遥かに上回るマッハ2.5にも達するのである。
ただし誘導方式は従来方式の慣性誘導*4とアクティブ/パッシブレーダー誘導*5であり、ECM*6には余り強くないと思われる。

レーダー等の電子機器や射撃統制装置は、ソ連版の「イージスシステム」*7と言える内容で同時多目標迎撃能力を有していると言われている。
ただし、周辺技術や装備されているレーダーの内容からして、米国の「イージスシステム」には遠く及ばないと見られる。
対空ミサイルの装備方式もリアクションタイムの少ない垂直発射方式*8ではなく従来型のターレットランチャー方式で、防空能力は非「イージス」艦の「たかなみ」型*9にも劣ると見て良い。

艦の動力は、同年代の他艦とは異なる従来型の蒸気タービンを搭載しており、出力は2基4軸で110000shpに達する。
「ソブレメンヌイ」級がガスタービンを装備しなかった理由は不明であるが、ほぼ同時期に竣工した「ウダロイ」級が多数現役であるにも関わらず「ソブレメンヌイ」級が4隻しか残されていない原因の一つが蒸気タービン搭載艦である事は確かであろう。

艦後部には対潜哨戒ヘリの格納庫と発着スペースが設けられており、格納庫は引き出し構造になって折り畳みが可能である。


さて、中国に渡った「ソブレメンヌイ」級であるが、既に引き渡された2隻は恐らく元ロシア海軍の退役艦と思われる。ロシア海軍向けに起工され建造途中だったのを売却したものである。
一方、中国は更に2隻を追加発注しており、こちらもやはり退役艦の売却という形になるのではと思われるが、改良を加えた新造艦になる可能性も無いとは言えない。こちらは改良を加えた新造艦になる見込みである。

今回東シナ海に現れた中国艦は、「ソブレメンヌイ」級「杭州」「福州」の他に級不明の洋上補給艦1隻である。
杭州」と「福州」は中国海軍では新鋭艦に相当する、言わば虎の子的な存在である。
ただ元々が80年代の設計である上に、中国海軍全体の練度や能力からして、差し迫った脅威とは言えようも無い。
艦対艦では多少の脅威ともなろうが、防空能力は艦としては兎も角中国軍全体として高いとは言えず、また対潜哨戒能力もお世辞にも高いとは言えない。
仮に自衛隊に対して2隻を沈めよという命令が下されれば、付近に潜航している潜水艦が数十分で沈めてしまうであろう。
今回の中国海軍の行動は、外向きには海自の海洋観測船を当該海域に投入した事への牽制、内向きには先刻の「漢」級潜水艦侵入事件の失態を取り繕うためと考えられる。
もっとも、中国側の出せる手札は今となっては殆ど尽きた状態であり、ここで我が方が踏ん張れば先方も手出しは出来ないであろうと思われる。
現代の外交において武力による示威行動は策としては下であり、冷静な判断力と正確な情報さえあれば恐れるに足らずという事である。

*1:ソ連CIWS

*2:ソ連側名称3M80

*3:米国製巡航ミサイル:別記参照http://d.hatena.ne.jp/heinkel/20041203

*4:ジャイロスコープを利用して一定の姿勢を保ち続ける方式

*5:レーダーの反射波を追う事で目標へと誘導する方式:ミサイル自らがレーダー波を出す方式と発射母機が出す方式とがある

*6:電子妨害:ミサイルのレーダーなどに対する妨害

*7:高性能のレーダーと多数の目標を同時に処理し脅威度を判別して自動で迎撃するシステム一式の総称:米国製

*8:ミサイルの弾体を一度垂直方向に打ち上げてから目標に向かわせる方式の発射装置:発射装置を目標に向ける必要が無いので発射時間のロスを抑える事が可能

*9:別記参照http://d.hatena.ne.jp/heinkel/20041230